ICAF実行委員会は、幹事校5校のアニメーション教育に携わる先生で組織されています。
そんな先生たちにも学生時代がありました。
先生方が自らを振り返りながら、今の学生へ贈る言葉です。
(*内容は掲載当時のものです)
布山タルト/東京藝術大学大学院映像研究科アニメーション専攻教授
慶應義塾大学SFCでアニメーション制作を始め、大学院修了後は岐阜のIAMASでメディアアートの教育・研究に従事した後、フリーの映像作家として活動。ジム・ウードリングのコミックを3DCGでアニメーション化した『FRANK』は、文化庁メディア芸術際アニメーション部門優秀賞、SIGGRAPH Electronic Theater入選など。
2003年からアニメーション制作デバイスの開発を始め、国内外の美術館で体験型展示やワークショップを行う。昨今は精神医療へのアニメーション活用やインクルーシブ教育におけるアニメーションの活用、初等・中等教育におけるアニメーション教育の実践研究等に取り組む。
産学官連携のアニメーター育成プロジェクト『アニメーションブートキャンプ』ディレクター。日本アニメーション協会理事。日本アニメーション学会副会長。一般社団法人日本アニメーション教育ネットワーク理事。博士(学術)。
*写真は1995年
Q:アニメーション制作を志したきっかけについて
最初は実写映画を撮りたかったんですよね。で、映画サークルに入ってカンフー映画の撮影に参加したり、ロードムービーの撮影で北海道を旅したりして楽しかったんですが、集団作業はあまり性に合わないとも感じてて。そんな折、たまたま先輩に教えてもらったシネカリが面白くて、そこからアニメーション制作にはまりました。
Q:出身校を志望した理由は? *慶應義塾大学SFC出身
もとは漠然と考古学か造園がいいなと思ってたんですが、高2の時に駅のホームで友達が「慶應にこんな学部ができたの知ってる?」といって情報誌を見せてくれて。そこに「科学と芸術の融合」みたいなことが書かれてて「あ、ここは面白そうだな」と、直感で決めました。
Q:在学中に頑張っていたことは?
自分で言うのもなんですが、大学時代はあらゆることを全力で頑張ってたような気がします。でも頑張ってる意識はありませんでした。周囲にスゴイ人達が沢山いて彼らが色々と教えてくれて、それを吸収するのがすごく面白かったから自然に頑張れた。アニメーションに取り組んだもその流れです。授業もかなりハードでしたが、先生もスゴイ人が多かったので頑張れた。その頃はSFCは全く評価されてなくて、慶應の中でもバカにされてたんですが、そういう黎明期は「何か面白そうだ」という直感だけを頼りにスゴイ人達が集まってて、環境には恵まれていたと思います。ただ、恵まれた環境というのは、裏を返せば環境に依存した軟弱な姿勢を作りやすい。今ではそういう弊害も自覚しており、教育や学びというのは本当に難しいです。
Q:学生当時の作品について
もともとシネカリの作品をたくさん作ってたんですが、安価な8mmフィルムを使ってたので、細かい作業で作るのがしんどくなってました。そんなタイミングでパソコンでシネカリのように手軽にアニメーションを描けるソフトと出会い、すぐにデジタルに移行しました。その頃につくった作品は、DOGAのCGアニメコンテストで賞を頂いたり、西村智弘さんが『日本のアニメーションははいかにして成立したのか』で書かれてますけど、キノ・サーカスという映像作家集団に参加させてもらったり、NHK-BSの『真夜中の王国』で作家として紹介してもらったりしました。大学が美大ではなかったので、周囲にはアニメーションを作る仲間がおらず、逆にそのおかげで積極的に外の世界とつながっていく欲が芽生えたような気がします。
しばらくデジタル手描きのアニメーションを作った後は、Softimageという3DCGソフトを独学で学び、全面的に3DCGに移行しました。そうして大学院修士の修了制作として作った作品が『Pioneer』で、実質的なデビュー作として国内外の映画祭等で上映して頂く機会を得ることが出来ました。
Q:ご自身とICAFについて
藝大の教員になった2011年くらいから関わるようになりました。フェスティバルディレクターをつとめたのは、2015年です。多くの大学の先生方とつながりが出来たのは貴重な経験でした。
Q:アニメーションを指導する教員として心がけていることは?
以前は色々と心がけていましたが最近はそうするのをやめていて…。なるべく臆見を排して学生たちと接し、彼/彼女らの潜在的可能性を伸ばしたいとは考えています。あと過去の経験や知識を伝えるだけの教師にはなりたくないので、教師自身が常に学び続けなくてはならない、とも思っています。
Q:昨今の学生アニメーションについて思うことは?
ICAFを見てもわかるように、とにかく数が多いですよね。クオリティの高いものも多い。でも予想を裏切るものは少ない。みんな素直過ぎるんでしょうか?「期待に応え予想を裏切る」の姿勢で、いい意味でひねくれてほしいと思ったりします。でも小手先の打算で作ってもうまくはいかないので、指導する側としては難しいところですが…。一つ言えるのは、アニメーションとはまったく接点のなさそうなテーマにも目をむけてほしい、ということでしょうか。
Q:現在のご自身の研究や創作について
ここ10年は地道に研究者としての経験を積むことに専念していて、その間、アニメーション作品はほとんど制作していません。ただ研究開発しているコマ撮りアプリの『KOMA KOMA』は、もともとメディアアートのプロジェクトとして文化庁の支援を受けて開発し始めたものなので、それも創作だといえますが。『KOMA KOMA』は、北米を中心にもうすぐ150万ダウンロードになりますが、リリース当初はこんなに広がるとは思ってませんでした。またディレクターを務める『アニメーションブートキャンプ』も同じで、7年も続いてタイやフランスでも開催することになるとは思ってなかった。 研究にせよ創作にせよ、あまり先のことを考えすぎてもフットワークが重くなるだけなので、基本的には眼前のことに全力で取り組むのが、一番良い結果に結びつくのかなと考えています。結局、僕の基本姿勢は学生時代からあまり変わってなくて、「長期的な判断は直観に委ねた上で、短期的な目標に全力で取り組む」という感じです。そしてこれは学生時代にはわかってなかったことですが、正しい直観を得るためには色んな経験や幅広い読書なども必要なんですね。だから学生時代が終わってからも、ずっと学び続けなくてはならない。
Q:学生や、アニメーション制作を目指す人へのメッセージをお願いします。
Carpe diem.